風と鳥 昔の記憶

朝、仕事場に向かう道 環状線にある緑と白の吹き流しがぱんぱんに真横になびいていた。あ、なびいてはなかった、とまってるかのよう。真横になった綿菓子の袋のよう。

それくらい強い強い大きな風が吹いていた。

風に煽られながら車を走らせていると、1羽の鳥が目に飛び込んできた。なんと、浮いている! 鳥だから浮いていていいんだけど、全然前に進んでないから宙に浮いているみたい。 パタパタパタとまるでゼンマイ仕掛け。高く空を飛ぶ鳥でこんなにパタパタしてるコいたかな。 羽を上下に動かして、風に向かって飛んでいる。風が強すぎて、前に進まないようす。パタパタパタ。パタパタパタ。

がんばれがんばれ。

パタパタパタパタ。。。あれ。

ねぇ、鳥。 絶対楽しんでるよね。

風に乗ればいいものを、委ねることもできるだろうに、わざわざ向かっていくってさ。 今すぐに風上に行きたい!絶対行かねば!っていう理由があるのかい。 ねえ鳥。わけがあってもなくてもいいけどね、きっとない気がするのだけどね、ただ風に向かって飛びたいのだね。

ねぇ鳥。 おまえ!おまえってやつは。

風に突っ込もうとして跳ね返されて、それでもパタパタ浮いている鳥から目が離せず、無風の車内から眺めていたのでした。

そのあと、もう一羽、風に挑む鳥を見たおもしろい朝でした。

ばたばたとあっという間に忙しい1日が終わって、一息ついて外に出ると、そとは薄暗くまたまた冷たい風。 うぅぅ寒い寒いと声を出し体を縮こませた時、顔に当たる強い風の感触とともに朝の鳥が頭をよぎり、それから子どもの頃の思い出がファ!と蘇ってきたのです。それはそれは突然に。毛穴の奥の感覚までも引き連れて。

小学校のグラウンド

強い強い風 両手を広げたら飛べそうで、調子に乗ったら飛ばされそう

強い強い風 ごーごー唸って自分の声さえまともに聞こえない 友だちに叫んでも遠くの遠くにいるみたい

体が風を受けて押されるから 負けないように前のめりになって

ぼーぼーと耳が鳴るから ついついわーーーーーーっと声を出す

どんなに大きな声を出したって 小さく聞こえるふしぎ!

いつのまにか、そこには風とわたしだけになって そこにいるはずの誰かも目に入らなくなって

わーーーーーーー!!!!

とか、あーーーーーーー!!!!とか叫んで風に向かって全速力で走りだす

全然前になんて進まない 口の中にも目の中にも風がぶつかって

体の前側の全てで圧を感じて 気持ちよくておもしろくて少しこわくてでもすんごく楽しくて、なんだか最高で

風圧!ふうあつ!

大きな声を出しても出しても風がどっかに飛ばしてしまうし 走っても走っても走れない!

広い広い校庭を夢中で進んでどこからどこまでが風なのか、いつからいつまで風なのか、 私の体がここにあって、風が当たっている!それがどうしようもなく楽しくて、うぉーーーとなんだか喜んで喜んで

風の真ん中で遊んだある日の記憶

走って走ってもう息できない!って きゃーっと言いながら後ろを向いて丸まると 突然ここに空間ができて、はぁはぁと息をして、自分の予想外に大きな声を聞いて笑った。

背中は強くて、平気な顔して風をうまいこと躱してる。

前と後ろの体感の違いよ! そして今度はそのまま走ってみる。追い風のときの風の友達感!ぐんぐん背中を押して、体が軽くなるおもしろさ!自分の体がこのまま飛んでしまうんじゃないかとどこかで思わずにはいられなくて、ドキドキしていた。楽しくて自然に声が出る。走る走る。おそるおそるでも思い切ってジャンプする!

自分の呼吸と風が耳によく聞こえて笑ってしまう。

鳥よ! 思い出したぞ、風のおもしろさ

今朝のワクワクはこのときの記憶

あの広いグランドを風と遊んだ記憶

あれを知っていたことが嬉しい

そうだった 向かい風のおもしろさ 追い風の勢いと心地よさ

どっちも同じ風で こちらは喜んで遊んでいる

あーすきじゃんか 追い風も向かい風も!

体がゆるんで冷たい風が、心地よく滑っていった

さて帰ろう とても疲れているけれど、強い風が背中をどーんと押した気がしたよ

今日も一日ありがとう

調子に乗って車まで小走りしたら、すぐに息が上がった夜のこと

はぁはぁ。 あはは。

あの鳥は今ごろぐっすり眠っている。