各駅電車

各駅電車に乗っています。


ガタゴト ガタゴト




わたしの場所は入り口近くの
ボックス席ではない横向きのふたり用の青いシート

隣のボックス席にはちいさい姉妹とママ

空はどんよりとして、
いやな風が吹いた朝だけど

ごきげんな女の子の歌が聞こえてきて
この車両の空気を軽くする


少し口元が緩んで、窓の外を眺めていると
私に向けた声がした


ー地元の人ですか

そちらを向くと
帽子をかぶって、ポケットのついた服を着たおじさんがたっていた
70近いだろうか、ズボンを上に上げながら

ーこの電車は石和温泉へ行きますかね?

と続けた

私は、一瞬考えて、はい、と言おうとしたら

もうひとりノッポのおじさんが通りかかって

ー行きますよ、私も行くから
   この電車はね。。。ホニャラララ

と立ち止まった



そこから突如、私を挟んでおじさんとおじさんの会話が繰り広げられる!


なぜか私も会話に入っている感があるこの距離感で、おじさんとおじさんが話す話す。
私もつられて、はぁ、へぇ、ほぉ!と相づち


どうやら、ノッポのおじさんは(あ、あとから入ってきたおじさん)電車オタクぽいぞ。

そして、帽子のおじさんは名古屋から来ていて、今初めて電車に乗ったらしい。初めてきっぷを買ったらしい!
おぉ!おっちゃんのはじめての電車の瞬間に立ち会った!


しかし名古屋からどうやって来たのだろうか。


でも目がキラキラしているから
このおっちゃんは悪い人ではなさそうだ。


帽子のおっちゃんは私の向かいの横向きの座席に座り、のっぽの電車通のおっちゃんはその隣のボックス席に座り

そのままふたりで話し始めた


この電車は石和温泉に停まります情報を仕入れたおっちゃんは、座って落ち着いたのだけど

のっぽの電車通のおっちゃんは
電車の話が止まらない
電車を愛している

携帯電話で撮った、なんかの時の記念の電車の写真をボックス席から乗り出して見せてマシンガントーク、そしてほんのすこし上から目線風


帽子のおっちゃんは
相変わらず目はキラキラしてるけど、少しトーンダウン。迷惑そうにも見える(笑)

ひとしきり、電車トークが五分咲きくらいに咲いてそのままはらりと散り、またそれぞれのひと時を過ごす



しばらくすると、初電車(と言い張る)帽子のおっちゃんがまた私に話しかけてきた

お天気がこんな曇り空で、心配だなぁと。

今日は川中島の合戦を見に行くと。


今日は石和の河川敷で、合戦の日だったみたい



そういえば私も昔、知らずに通りかかったことがあって
鎧を着たたくさんの侍が川にいて驚いたことがある


今日が、その日らしい


そこに行くのが初めてで、楽しみにしているみたい


他、山梨の話をしたり
歴史が好きみたいで武田信玄の話や、昔恵林寺に来たこともある話をしてくれた
(その時はどうやってきたのだろうと頭をよぎるが、目をつむる)

だって、おっちゃんは目がキラキラしてる!


雨、降らないといいですね〜

なんて言ってるうちにもうすぐ石和温泉


のっぽのおっちゃんが立ち上がった

ひとり言のように、もう着きますよーそうかそうか今日は川中島の合戦かぁ
地元の人はいかないから、その日になって知るもんだ、いやー知らなんだ知らなんだ
おかしなもんだわ

なんてつぶやいて

石和温泉に到着



楽しんできてくださいね〜

とふたりを見送ると

キラキラの電車初めての帽子のおっちゃんは、

へらっと笑って

私に言ったのかのっぽのおっちゃんに言ったのか、

ありがとうありがとう!
灯台下暗しってやつですな!


と言い残して、電車を降りて行った。






代わりに、きれいなお姉さんが乗ってきて

私の前に座った。


電車が動き出し
一息ついて外を眺めると、窓にななめにぽちぽちと
雨粒がぶつかってきた


あちゃー。きたー。
おっちゃん傘持ってるのかな

おっちゃん、川中島の合戦の河川敷まで行けたかな

のっぽのおっちゃんも絶対合戦見に行ってるよな

あのままふたりで行ったりして


なんて少し笑いそうになりながら
おっちゃんのことばかり考えてる自分にまた笑いそうになった



ボックス席の女の子が
また歌を歌ってる


箱から出して〜♪しかくい〜♪
ひとつひとつ〜♪いやいやいやいや〜♪


キャラメルの歌らしい

ごきげんは空気感染するよね



毎日がミュージカルだ


東京に近づいて、たくさんの人が乗りんできた



久しぶりの電車
人が乗っては降りていく


なんでもないこんな時間が
ほんとはとてもおもしろい


ここにいる人みんなにドラマがある


言葉交わさずとも
同じ車両に乗った人とは多少の縁があるんだろう


灯台下暗しってやつですな。



みなさん。すてきな今日を!